お灸をしてほしいのですが。

このような電話が時々掛かってきます。

お年寄りからの電話の場合、なんとなく理由は分かるのですが、そうでない方からの場合はどうしても理由が聞きたくなります。

でも治療中の場合、中々詳しい説明が出来ないのでこのように説明させて頂いています。

「お灸にはお灸の、鍼には鍼のもつ作用がありますので、診断した結果、どちらを選択するかは私の判断で決めさせて頂いております。」と。

実は鍼灸師でも、どのような場合鍼をすべきなのか、お灸をすべきなのか、きちんと説明が出来る人をみたことがないのでブログという形で説明をさせて頂きたいと思います。

鍼灸医学では人間の体は、陰と陽の2種類の気(気と血(けつ)を総称)というエネルギーで出来ていると見ます。そしてその陰陽の気バランスが乱れた状態を病気として捉えます。

この乱れた陰陽のバランスを整えるものが鍼と灸になります。

鍼は陰の性質をもち、体の熱を取り去る働きと、体の比較的表面を流れる気の調整を行う道具なのです。そして穴(つぼ)といわれる気の出入口を開き流れをスムーズにするのが目的です。

お灸は陽の性質を持ち、体の冷えを取り去る働きと、体の中を流れる血(けつ)からくる病(やまい)を治すことの出来る道具です。

灸には必ずモグサを使いますが、このモグサのもつ陽気が気と血(けつ)の詰まりを溶かします。電気的な熱では同じ熱でも効果は薄いです。

このような観点から見ると、個々の患者さんの状態によって、鍼だけの方がいいかお灸だけの方がいいか、鍼と灸を組み合わせた方がいいか、治療法が変わってきます。

一言でいうと鍼は気の調整灸は気の補充

を目的としています。

食事をする事、お風呂に入る事はお灸をするのと同じ、と思って頂いて良いでしょう。

となると、治す体力(陽気)が十分あるのにお灸をしたらどうなるでしょう?

食べすぎたら苦しくなるし、お風呂に入り過ぎたら湯あたりを起こすのと同じ状態になりますよね。

お灸も同じです、気持ちいいからと余計に熱を入れ過ぎると灸あたりと言って湯あたりと同じ状態になってしまいます。

お灸を求める方が熱を欲していて、体が弱っていれば良いのですが、何か炎症性の疾患などを持っている場合、病状を悪化させる要因になってしまいます。

私の亡くなった師匠は、無くなる直前までお灸は怖い(難しい)といって、お灸の怖さを私に伝えようとしていました。

鍼は打ち方を間違ったら返し鍼といって、元に戻せますが、お灸をやり過ぎた場合、体に入れた熱は中々取るのが難しいのです。